TOPIC / 税金
相続の税金の話に、鑑定評価はどう関わるのか
税額の計算や申告は税理士の職域であり、当事務所が税務の助言をすることはありません。ただ、その計算の前提となる「不動産の時価」の場面では、不動産鑑定士の出番があります。どの場面でだれに相談すべきかを整理します。

このページの結論
- 税額の計算・申告・節税の助言は税理士の独占業務です。本ページは、時価(鑑定評価)が登場する場面の交通整理に徹します。
- 遺産分割の前提となる時価と、相続税申告のための路線価評価は、目的も基準も異なる別の価格です。
- 路線価ベースの評価が実勢と大きく乖離する場合に、時価による申告が検討されることがあります。採否の判断は税理士が行います。
- 相続した不動産を売却すると譲渡所得の話が生じます。ここでも計算は税理士、時価の把握は鑑定士という役割分担です。

執筆: 吉田 健人(不動産鑑定士 登録番号 第11191号)
株式会社KRE Appraisal|不動産鑑定業者登録 東京都知事(1) 第2987号
場面①:遺産分割の時価と、相続税の路線価評価は別物
相続の場面では、同じ不動産に2種類の価格が登場します。相続税申告のための評価額(路線価等に基づく相続税評価額)と、遺産分割のための時価です。この2つを混同すると、「申告で使った金額で分ければいい」という話になりがちですが、両者は目的が異なります。
相続税評価額(路線価等)
課税のための価格──税理士の領域
- 財産評価基本通達に基づき算定
- 時価の8割を目安に設定される路線価がベース
- 納税者間の公平と課税実務のための画一的な基準
- 相続税の申告に使う
時価(鑑定評価額)
分けるための価格──鑑定士の領域
- 不動産鑑定評価基準に基づき個別に算定
- 市場で成立するであろう価格を個別要因まで反映
- 相続人間の公平のための個別具体的な価格
- 遺産分割・代償金・遺留分の計算に使う
※ どちらが正しいかではなく、目的が異なる別の価格です。
路線価ベースの金額で遺産分割をすると、不動産を取得する相続人と金銭を受け取る相続人の間で不公平が生じ得ます。この論点は 「路線価と時価」のページで詳しく解説しています。
場面②:路線価評価が実勢と大きく乖離しているとき
相続税申告は路線価等による評価が原則ですが、財産評価基本通達には、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合には国税庁長官の指示を受けて評価する、という規定があります(いわゆる総則6項)。
実際に、令和4年4月19日の最高裁判決では、通達評価額と市場価格の乖離が大きいなどの事情があった事案について、通達によらない評価(鑑定評価額)に基づく課税処分が適法とされました。逆に、路線価ベースの評価額が実勢価格を大きく上回ってしまう不動産について、時価による申告が検討されるケースもあります。
いずれも、通達評価と実勢の乖離が大きい場面では「時価がいくらか」が税務上の論点になり得る、という一般論としてご紹介するものです。個別の事案でどう扱うべきかは、税務の専門領域です。
場面③:相続した不動産を売却するとき
相続した不動産を売却して利益が出ると、譲渡所得(売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた利益)に所得税・住民税が課され得ます。取得費は被相続人(亡くなった方)が購入したときの金額を引き継ぐのが原則で、古い不動産では購入時の資料が見つからないことも少なくありません。取得費の扱いや特例の適用は税額を大きく左右しますが、その計算・判断は税理士の職域ですので、概要の紹介にとどめます。
鑑定評価が関わるとすれば、売却の前段階です。換価分割(売却して代金を分ける方法)にするか代償分割にするかの比較、売り出し価格の妥当性の確認など、「この不動産はそもそもいくらなのか」という判断材料としての時価の把握です。税務上の取扱いは税理士にご確認ください。
| 場面 | 使われる価格 | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 遺産分割・代償金・遺留分の計算 | 時価(鑑定評価・価格等調査) | 不動産鑑定士・弁護士 |
| 相続税の申告 | 相続税評価額(路線価等)が原則 | 税理士 |
| 通達評価と実勢の乖離が大きい場合の申告 | 時価による申告の検討(採否は税理士の判断) | 税理士(時価の資料は不動産鑑定士) |
| 相続した不動産の売却 | 成約価格・譲渡所得の計算 | 税理士(売却判断の時価は不動産鑑定士) |
※ 一般的な整理です。個別の事案での税務上の取扱いは税理士にご確認ください。

税理士の先生からのご依頼、税理士の先生と連携しての対応も承っています。評価の趣旨や根拠は、税理士の先生へ直接ご説明します。どの場面のどの価格が必要なのかの整理からご相談ください。
税理士との連携について相談する初回相談無料/ご相談内容を他の相続人に伝えることはありません
役割分担を明確に──税額は税理士、時価は鑑定士
相続の税務は、財産評価・税額計算・申告・特例の適用判断まで、一貫して税理士の職域です。当事務所はその領域には踏み込みません。逆に、市場の実勢を反映した個別の不動産の時価を、根拠を示して文書化することは、不動産鑑定士にしかできない仕事です。
この役割分担が明確なほど、相続の手続は円滑に進みます。顧問の税理士の先生がいらっしゃる場合は、まず税理士の先生にご相談のうえ、時価の資料が必要になった段階で当事務所をご利用ください。税理士の先生向けのご案内は「士業の先生方へ」のページにまとめています。
よくあるご質問
鑑定評価を取れば相続税を下げられますか。
当方はそのようなご提案はいたしません。税額の計算や節税の助言は税理士の独占業務であり、不動産鑑定士の職域ではないためです。路線価ベースの評価が実勢と大きく乖離しているケースで時価による申告が検討されることはありますが、その採否の判断は税理士が行うものです。当方は、税理士の先生が検討するための材料として、時価を示す鑑定評価書を作成する立場です。
相続税申告の評価額と、遺産分割で使う評価額は同じでないといけませんか。
別のものです。相続税申告は財産評価基本通達(路線価等)に基づく課税のための評価、遺産分割は相続人間の公平のための時価の評価で、目的も基準も異なります。申告は路線価ベースで行い、分割協議は時価で行う、という使い分けは一般的です。申告実務については税理士にご確認ください。
鑑定評価書を提出すれば、時価での申告は認められますか。
鑑定評価書は時価を示す有力な資料ですが、課税庁や裁判所の判断を拘束するものではありません。時価による申告が認められた事例も認められなかった事例もあり、採否とリスクの判断は税務の専門領域です。税理士の先生とご相談のうえでご依頼ください。当方から税理士の先生への説明にも対応します。
相続した実家を売却する予定です。税金はどうなりますか。
売却益(譲渡所得)に所得税・住民税が課され得ます。取得費や特例の適用など、税額の計算は税理士にご確認ください。なお、売却前に時価を把握しておくことは、売り出し価格の設定や、そもそも売却するか代償分割にするかの判断材料としても役立ちます。

鑑定が必要かどうかの確認だけでも構いません
物件の内容と手続の状況をうかがい、どの資料が必要か、費用はいくらかをお伝えします。必要がなければその旨をお伝えします。初回のご相談は無料です。